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「うつ」とやっかいな「彩り」の話 –躁うつ病の今 その2-

いずれにせよ、人間は「矛盾の束」である。完璧な人間などいないのだから、いい加減に生きるのがうつ病にならないコツだと、私は思う。

 - 北杜夫 作家 精神科医 -

「パパは楽しい躁うつ病」では北杜夫さんの躁状態における様々な奇行がまさに楽しく紹介されています。晩年うつが続くと娘の斎藤由香さんはもう躁病にはならないのかと寂しく感じていたそうです。変わった娘さんです(笑)

 一般的な双極性障害の病像からすると北杜夫さんの双極性障害も実はかなり変わっている面があったようです。うつ病の時に自殺念慮、つまり死んでしまいたい気持ちが全く出なかったとうのも大きな特徴でしょう。双極性障害に限らずうつ状態における最も厄介な問題が自殺の問題であることに異論はないと思います。北さんが精神科医でご自身のうつが時間とともに自然と治ると確実に知っていたこと、半生における自己肯定感が大きかったことなどが大きな要因でしょうか。双極性障害のうつは特にストレスがなくても勝手に巡ってくることも多いですが、冒頭の言葉のようにどこか「力の抜きどころ」が分かっておられたのも重要な点かもしれません。

 さて、自殺の問題は改めて書くとして、前回の続きの気分障害とその「彩り」としての双極性障害っぽさ、「Bipolarity」のお話です。うつ病と双極性障害に境界線を引く作業はとても難しく、時には100%無理、お手上げであることすらあることを前回書きました。

 この二つを区別して的確に診断する必要があるのはそれぞれ、異なる治療が必要だからです。特に薬物療法においてその違いが明確になります。以前ご紹介した日本うつ病学会の治療ガイドライン*にもあるように、中程度以上のうつ病の患者さんへの抗うつ薬の有用性は明らかです。しかし、同じようなうつの状態にあっても双極性障害やBipolarityの高いうつ病の患者さんは体質的に抗うつ薬が合わないことが多いのです。

 合わないというのは、「全然効かなかい」「効きすぎる」「最初は効いても次第に効かなくなっていく」などパターンは色々です。「うつは取れて気分は良くなってきたけど以前のその人とはなんとなく違った尖った感じになっている」なんてこともあります。医師は病気になる以前のその人を知っていることが稀ですのでこれはなかなか気づきません。これを本人が「以前は内にこもっていたけど、良くなってバンバン言いたいことが言えるようになりました!」なんて報告すると医師も良い方に捉えてしまいますが、実際は患者さんの周囲ではトラブルが頻発してるなんてことも。何かのきっかけで抗うつ薬をやめるとそれがなくなって一同「???」ということを多く経験します。

Bipolarityは「体質」ですので気分障害、うつ病にかかる前からその人の中に存在していたということになります。その一端を知ることができればその方がうつ病にかかった時の治療に役立てることができます。Bipolarityを測定する方法、機械は現在のところ残念ながらありませんので、その一端を専門家がその人の病前、病後の姿の中に見出していくことになります。

 例えば、これらの方々がうつ病の症状を訴えて来られた場合には、抗うつ薬が合わない可能性を考慮して治療を進めます。

近い親族に双極性障害の患者さんがおられる方

 もともと「人並み以上に元気」で活発に活動されていた方

 もともと「好不調の波」の自覚のある方

 若者で典型的なうつ症状(悪化時に寝たきりのようになるなど)がある方

 うつに躁が入り混じる「混合」の特徴がある方

 うつの時に周囲への恐怖感が高まる特徴がある方 

もちろんこれらに当てはまらない方で治療経過中にBipolarityがはっきり見えてくる方もおられます。

 このあたりのお話は田中圭一さんの「うつヌケ」**の中にも出てきますね。このような方々に薬物療法を行う場合は抗うつ薬よりも気分安定薬や一部の非定型抗精神病薬と呼ばれる薬の方が利があり、抗うつ薬を使う場合もこれらとの併用が効果が安定します。

 もし、あなたがうつの治療中でなかなか経過が安定せず、上記にあてはまるならば、ひょっとするとBipolarityの体質があるのかもしれません。

 一度主治医の先生とよく相談されてみることをお勧めします。

*http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/160731.pdf

***うつヌケ 田中圭一 角川書店 2016

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